求職者には見えていない「面接官の頭の中」Vol.3
「上司と合わなかったので辞めました」――面接官が見ているのは上司ではなく「あなた」かもしれない
転職面談で退職理由をお聞きすると、よく出てくるのが、
「上司と合わなかったので転職したい」
「上司と考え方が合わない」
「自分の意見を聞いてもらえない」
「上司の指示が頻繁に変わる」
「正当に評価してもらえない」
「上司との関係が悪く、仕事がやりづらい」
職場で毎日顔を合わせる上司との関係は、仕事への意欲や働きやすさに大きく影響します。
実際に、上司のマネジメントに問題があるケースもありますし、ハラスメントや不当な扱いによって、転職を選択せざるを得ない方もおられます。
ただし、面接で、
「上司と合わなかったので辞めました」
とだけ説明してしまうと、面接官は別のことを考え始めるかもしれません。
今回は、転職エージェントとして求職者と採用企業の双方に接している立場から、少し踏み込んで考えてみます。
面接官は「上司が悪かったかどうか」を判定しているわけではない
まず、知っておいていただきたいことがあります。
面接官は、前職の上司がどのような人物だったのかを直接知っているわけではありません。
求職者から聞いた話だけで、どちらに問題があったのかを正確に判断することは難しいものです。
そして、採用面接は、前職の人間関係について白黒をつける場でもありません。
では、面接官は何を確認しているのでしょうか。
「この人は、考え方や価値観が異なる相手と、どのように仕事を進める人なのだろう?」
会社という組織には、さまざまな考え方の人がいます。
上司を選べるとは限りませんし、異動や組織変更によって人間関係が変わることもあります。
だからこそ面接官は、過去の出来事を通じて、入社後の働き方を想像しようとします。
面接官の頭の中①「この人は、誰が上司でも合わないのでは?」
面接官の頭の中
「上司と合わなかったというけれど、当社の上司とも合わなかったらどうするのだろう?」
「上司と合わなかった」という退職理由を聞いたとき、面接官によっては、このような疑問が浮かびます。
もちろん、すべての面接官がそう考えるわけではありません。
しかし、採用企業にとって、組織への適応は重要な判断材料です。
特に気になるのは、上司との関係について、
「考え方が合わなかった」
「性格が合わなかった」
「自分のやり方を理解してもらえなかった」
といった抽象的な説明だけで終わってしまう場合です。
「具体的に、何が合わなかったのだろう?」
「仕事の進め方の問題なのか、単なる好き嫌いなのか?」
「上司の方針と自分の考えが違ったとき、どう対応したのだろう?」
「上司と合わなかった」という言葉だけでは、何が起きたのかが分からないのです。
面接官の頭の中②「自分の考えが正しいと思い込んでいない?」
面接官の頭の中
「この人は、自分と違う考え方を受け入れられるのだろうか?」
ここは、少し耳の痛い話かもしれません。
求職者から、「上司が自分の意見を聞いてくれなかった」「上司のやり方に納得できなかった」というお話をお聞きすることがあります。
もちろん、上司の判断が必ず正しいわけではありません。
現場をよく理解している部下の意見が、十分に反映されないこともあるでしょう。
ただし、会社では、自分の提案が採用されないこともあります。
上司には上司の立場があり、部門全体の方針、予算、他部署との調整など、本人には見えていない事情がある場合もあります。
だからこそ、「自分の意見が通らなかった」という事実だけでは、上司に問題があったのかどうかは判断できません。
面接官が確認したいのは、「自分の意見が採用されなかったとき、あなたはどう行動したのか?」という部分です。
意見が異なること自体は問題ではありません。その違いに対して、どのような姿勢で向き合ったのかが重要なのです。
面接官の頭の中③「関係を改善するために、何か行動したの?」
面接官の頭の中
「うまくいかないことがあったとき、この人は改善に向けて動く人なのか。それとも環境を変えることを最初に考える人なのか?」
転職エージェントとして、私たちも確認することがあります。
「上司との関係について、ご自身から何か働きかけましたか?」
「認識の違いについて、直接話し合ったことはありますか?」
「他の上司や人事部門に相談しましたか?」
「部署異動など、転職以外の選択肢は検討しましたか?」
こうした質問をするのは、転職することが悪いと考えているからではありません。
対人関係の問題に直面したとき、どのように考え、行動する方なのかを確認したいからです。
ただし、ハラスメントなどのケースは別です
パワーハラスメントや人格否定、威圧的な言動などがある環境では、本人が直接話し合うことによって、かえって状況が悪化する場合もあります。
そのような場合にまで、無理に関係改善を求めるべきではありません。
自分の心身や安全を守るために、環境を離れることが適切な判断となるケースもあります。
大切なのは、必ずしも「上司と話し合った実績」を作ることではなく、「どのような状況で、何を考え、なぜ転職という判断に至ったのか」を整理しておくことです。
面接官の頭の中④「うまくいかない原因を他人に求める人では?」
面接官の頭の中
「この人は、仕事がうまくいかなかった原因を、すべて周囲に求める人ではないだろうか?」
面接で特に注意したいのが、退職理由の説明が上司への批判に終始してしまうことです。
「上司にマネジメント能力がなかった」
「上司が仕事を理解していなかった」
「上司が自分の成果を横取りしていた」
「上司のせいで職場の雰囲気が悪かった」
これらが事実である可能性はあります。
しかし、話が長くなるほど、面接官の関心は別の方向へ向かうことがあります。
面接官が警戒するのは、必ずしも上司への不満そのものではありません。
「自分自身の行動や判断について、どのように振り返っているのかが見えないこと」です。
上司に問題があったとしても、その出来事から何を考えたのか。
次の職場では、どのような働き方をしたいのか。そこまで説明できると、受け取られ方は変わってきます。
「上司の悪口を言っているつもりはない」でも、そう聞こえることがある
求職者ご本人は、退職に至った経緯を正確に説明しようとしているだけかもしれません。
ところが、面接官にとっては初めて聞く話です。
前職の職場環境も、上司の人物像も、そこに至るまでの経緯も知りません。
その状態で上司への不満が次々と出てくると、「この人は、前職への不満がかなり強いのだな」という印象だけが残ってしまう可能性があります。
ここに、求職者と面接官の認識のずれがあります。
求職者が伝えたいこと
「自分が辞めざるを得なかった事情を理解してほしい」
面接官が知りたいこと
「この人が入社したら、どのように周囲と関わるのだろう?」
つまり、双方が見ているものが違うのです。
面接官は「次の質問」で確かめてくる
「上司と合わなかった」と説明すると、面接官から次のような質問をされることがあります。
「具体的には、どのような点で考え方が合わなかったのですか?」
「そのとき、ご自身はどのように対応しましたか?」
「上司と直接話し合う機会はありましたか?」
「他の上司や同僚との関係はいかがでしたか?」
「部署異動などは検討されましたか?」
「当社でも意見の異なる上司がいた場合、どのように対応しますか?」
面接官は、対人関係の問題に直面したときの考え方や行動、組織の中での働き方を確認しようとしています。
では「上司と合わなかった」は言わない方がいい?
そういうことではありません。
実際に上司との関係が転職理由なのであれば、無理に別の理由へ置き換える必要はありません。
ただし、
「上司と合わなかった」という結論だけではなく、その中身を整理することが重要です。
例えば、「仕事の進め方について、上司と意見が異なることが多かった」という場合。
具体的にどのような違いがあったのか。その違いによって業務にどのような影響があったのか。
自分はどのような対応をしたのか。そして、なぜ転職という判断に至ったのか。
ここまで整理すると、単なる人間関係の不満ではなく、仕事に対する考え方や判断の経緯が伝わりやすくなります。
「上司と合わなかった」を4つに分解してみる
① 何が合わなかったのか
性格なのか。
仕事の進め方なのか。
指示の出し方なのか。
評価の考え方なのか。
業務上の方針なのか。
まずは「合わなかった」という曖昧な表現を具体化します。
② その状況で、自分はどう行動したのか
上司の意図を確認したのか。
自分の考えを伝えたのか。
業務上の調整を試みたのか。
相談できる相手はいたのか。
あるいは、相談や対話が難しいほど深刻な状況だったのか。
何をしたかだけでなく、何ができる状況だったのかも整理することが大切です。
③ なぜ転職するという判断に至ったのか
関係改善が難しかったのか。
業務上の支障が継続していたのか。
組織の方針そのものが自分の目指す方向と異なっていたのか。
心身への負担が大きかったのか。
「合わないから辞めた」ではなく、転職を選択した判断の背景を整理します。
④ 次の職場では、どのように働きたいのか
どのような上司が理想か、という話だけではありません。
自分自身がどのように周囲と関わり、どのように仕事を進めていきたいのか。
「次は理解のある上司の下で働きたい」だけでなく、「自分は次の組織でどう働くのか」まで考えてみましょう。
NG回答と改善例
NG回答
「前職では上司と考え方が合わず、自分の意見もほとんど聞いてもらえませんでした。上司の指示も一貫しておらず、仕事が非常にやりづらい環境でした。上司が変わる見込みもなかったため、転職を決意しました。」
この説明では、上司に問題があったということは伝わります。しかし面接官には、「本人は、その状況で何をしたのだろう?」という疑問が残ります。
改善例
「前職では〇〇業務を担当しておりましたが、業務の進め方や優先順位について、上司との間で認識の違いが生じることがありました。
そのため、業務の目的や判断基準を事前に確認するなど、認識のずれを減らすよう努めてきました。一方で、組織としての業務方針もあり、自分が今後さらに取り組みたいと考えている〇〇の領域に関しては、現職で実現することが難しい状況でした。
今後は、これまで培ってきた〇〇の経験を活かしながら、周囲との情報共有や連携を大切にし、△△の業務にも挑戦していきたいと考え、転職を検討しています。」
この回答では、上司との意見の違いを隠していません。
何が起きたのか → 自分はどう行動したのか → なぜ転職なのか → 次にどう働きたいのか
という流れで説明しています。
もちろん、実際には行っていない改善行動や、存在しなかったキャリア上の理由を付け加える必要はありません。
大切なのは、事実を変えることではなく、事実をどのような順番で、何を中心に説明するかです。
転職エージェントから伝えたいこと
私たちは、転職相談でさまざまな退職理由をお聞きします。
その中には、上司との関係に本当に苦労されてきた方もおられます。
理不尽な指示を受けたり、正当な意見を受け入れてもらえなかったり、深刻なハラスメントを経験された方もおられるでしょう。
そうした事情を、無理に前向きな言葉へ置き換える必要はありません。
ただ、採用面接において考えておきたいことがあります。
面接官は、あなたの前職の上司を採用するわけではありません。
採用しようとしているのは、あなた自身です。
だからこそ、上司がどのような人物だったかという説明だけで終わらせず、
「自分はどのように仕事に向き合ってきたのか」
「その経験から何を考えたのか」
「次の職場ではどのように働きたいのか」
という部分まで伝えることが大切です。
面接官が知りたいのは、
「上司と合わなかったという過去」だけではなく、「当社で周囲とどのように関わり、仕事を進めてくれる人なのか」
ということなのです。
退職理由を考えるときには、「どう説明すれば自分の事情を分かってもらえるか」だけでなく、「面接官はこの話を聞いて何を疑問に思うだろうか?」という視点も持ってみてください。
退職理由の伝え方や、今後のキャリアについて相談してみませんか?
「上司との関係が理由で転職したいけれど、面接でどう説明すればよいか分からない」「これまでの経験を整理して、自分に合った職場を探したい」。
共栄経営センターでは、求職者と採用企業の双方の視点を踏まえながら、退職理由の整理や転職活動をサポートしています。
次回予告|求職者には見えていない「面接官の頭の中」
「職場の人間関係が悪かったので辞めました」――面接官は「あなた自身にも原因があったのでは?」と考えているかもしれない
上司との関係とは異なり、同僚やチームとの人間関係を理由にした転職では、面接官は何を確認しているのでしょうか。次回も、求職者には見えにくい「面接官の頭の中」を転職エージェントの視点から解説します。
